後半3冊。
ゲドは全ての力を使い果たし、魔法使いではなくなってしまう。
人知れず静かに暮らし始めた新たな生活を描いた4巻、帰還。
3冊目から4冊目を執筆するまでに、なんと18年程も空いていたそう。
ここから面白くなくて読めなくなったという人が多いようだ。年月が経ったせいなのか、確かに本の雰囲気ががらりと変わったのを感じた。
わたしはというと、アースシーの世界で過ぎていく日々と、自粛中のささやかな暮らしがどこか重なっているのを感じながら読んでいた。
ヤギを飼ったり、糸を紡いで布と交換したり、パンを焼いたり、農園を営んだり。
身の回りにあるもので、なんとか暮らしていく生活。
あまり展開のない一冊だけど、暮らしの細かな描写に、現実を忘れて入り込む。
かつて大巫女アルハとして生きたテナーが、歳を重ねて普通の女性として生きる姿も、その普通さゆえというか、現代にも通じる男性に対する考え方が、普通のファンタジーにはあまりないかもなと思う。生活感があるというか。
さすが女性が描く物語だ。
5冊目は外伝。
外伝だけど、やっぱりこれを読んでから最終巻を読んだ方が断然面白いと思う。
それまで明かされてこなかった、いくつかの違う時代に起きた出来事が描かれている。
ゲド戦記はゲドが主人公じゃない時もしっかり面白い。
6冊目に入ってようやく、長らく謎に包まれたいた「世界を蝕んでいるのはいったい何なのか」が明らかになっていく。
全巻を通して、竜と人間と関わり、魔法の均衡といった、ものの成り立ちや原則、人々の感情の奥底にあるものなど、深くに切り込んだ視点が素晴らしい作品だった。
グウィンさんの頭の中(心の中か?)には、本当にアースシーが存在しているんだと思う。
例えば指輪物語のように大軍を率いて戦う壮大さや、奇跡のような出来事で世界が救われたりはしないのだけれど、精神的で世界まるごとが美しい。お気に入りの作品のひとつになった。
いつかグウィンさんの他の作品も、読んでみたいと思う。